その日、車中泊場所は道の駅。季節は日に日に寒さを増す12月。夕食を済ませた後、結構な距離を移動してきたので、道の駅に到着したのは午後9時を過ぎていた。
周囲にはなにもなく、暗闇の中に道路沿いの外灯が道の形に点々と光の筋になり、遠く漆黒の果てに吸い込まれて行く光景が目の前に広がるのみ。深い山に分け入ったという訳でもない場所なのに、人の気配を感じられない極めて寂しい立地であった。
さて、このような場所で何をやれる訳でもない、することといえば歯を磨いて後は寝るのみである。ということで、眠りについたのは午後10時を少し過ぎたくらいの時間だった。
(熟睡)
ふと、目が覚めた。早い時間に眠りにつくと、往々にして途中で目が覚めることがありがちだが、この時もやはりそうだったのだろう。周りはまだ闇。時計を見ると、11時半。1時間ちょっとしか寝てないらしい。
覚めきらない頭でまたすぐに寝ようと考え布団の中でもぞもぞするが、下腹部にもよおす感覚がそれを邪魔する。
(暫く葛藤)
あー、めんどくせいっ!
結局、起きた。寝る前にちゃんとトイレは済ませておいたのだが、ホントにこういう時は頭に来る。寝ぼけた頭で悪態をつきながら、布団からは完全に出ないまま緩慢な動作でスエットを着込んだ。なにせ、布団から出ると寒いから。
ここでちょっと説明しておかなければならない。車中泊に使っているのはワンボックス発展型のミニバンで、後部座席二列をフラットにして寝ている。前席は倒さずにそのままで、寝る時に邪魔な荷物を運転席と助手席に退避してある。後部はスライドドアになっているが、座席をフラットにすると隙間は殆どなくなり、出入りのために靴を履くのは意外に大変な作業だ。かといって、前席からの出入りは前述の通り退避した荷物が邪魔になっているために、難しい状況。このように一度寝る体制を作ってしまうと、車からの出入りが非常に億劫になってしまうのである。
頭がぼーっとしている。それでも意を決して、スライドドアを引き開け靴を履こうとする。
おっと、鍵。
忘れていた。車のキーはハンドルに刺しっ放しになっている。これを取ろうと再び車内に上がり、運転席と助手席の間から体を伸ばした。だが、ハンドルが邪魔になってなかなか取りづらいのだ。ここで、寝ぼけた頭にしてはひらめいた。外から取れば楽じゃん。
運転席のドアにあるスイッチで、全席ドアの施錠・解錠がワンタッチでできる。ハンドルの隙間から手を差し込んでキーを抜くよりは、このスイッチの方がよほど届きやすい。ということで、さらに体を伸ばしてスイッチをポン。バスンと音がして解錠。再び開きっ放しの後席スライドドアから靴を履き直して外に出た。そう、普通に運転席ドアを開けて外から鍵を抜こうという作戦だ。
そして、これが悪夢の始まりだった。
外に出た時、もう条件反射的にスライドドアのノブに手がかかり、降りる動作と体重をかけてスライドドアを閉める動作がごく自然に連続して行われた。命令系統に脳みそは介入していない。純粋なる条件反射。
閉まりゆくスライドドアを見ながら、突然に、頭の中の靄が晴れ思考が鮮明になった。警告音が頭の中に響き渡る。
ちなみに、この時は車を買い替えてから1年未満と日が浅く、前の車の操作と新しい操作がごっちゃになっている時期である。
素早く閉まる方向と反対にノブを引っ張った。ドアが閉まるのを阻止しようと思ったのだ。しかし、カチっと音がして、ツメが噛んだ。この時点で半ドア状態であるが、ドアクローザーのモーター音が虚しく響き渡り、スライドドアは巻き上げられて全閉。
...
恐る恐るドアを開けようとノブを引っ張ったが、悪い予感の通りドアは開かなかった。後席スライドドアも前席のドアも、全て。
何がいけなかったのか。運転席側にあるドアロックのスイッチ、押すたびに施錠・解錠が順番に繰り返されるのだと、寝ぼけた頭で思い込んでいた。しかし実は、スイッチはシーソー型となっており、スイッチの前方半分を押すと解錠、後方半分を押すと施錠という仕組みだったのだ。そう、運の悪いことに、後側を押してしまったようだ。
【教訓】
車中泊の前に、車の操作には充分慣れておくべし。